龍泉寺、龍の口伝説

 昔のこと、龍泉寺で修行しながら働く、まじめな寺男がいました。男には、お嫁さんがまだなく、一人暮らしでした。ある日、男が家に帰ると、そこに女が立っていて、
「どうか、ひと晩泊めてください」
 と、男に頼みました。親切で人の良い男は、家に入れ、茶がゆを食べさせ、ゆっくり休ませました。
 次の日、女は男より早く起きて家の中をきれいに掃除し、朝ご飯も作りました。男は喜んで仕事に行きました。次の日も女はいて、掃除やご飯の支度など、よく世話をしてくれます。
 そして、いつしか二人は夫婦になり、かわいい男の子が産まれました。男はまじめに働き、朝、家を出て、決まった時間に帰りました。しかし、かわいい子ども見たさに、少し早く帰ることがありました。
 そのとき女は男に、子どもにお乳を飲ませたり、添い寝を見られるのは恥ずかしいので、早く帰るときは「帰ったよ」と、声をかけてくださいね、と男に強く頼みました。
 しかしある日、男は約束を破って、黙ってそうっと家に入りました。すると、部屋いっぱいに大きなまっ白い蛇が、赤ちゃんと添い寝しているではありませんか。
 男は腰を抜かさんばかりに、びっくりしました。白い蛇はあわてて女に戻り、
「私は龍泉寺の龍の口に棲む蛇です。ずっと前から、あなたに惹かれていました。でも見られたからには、もう夫婦ではいられません。龍泉寺の池に帰ります。子どもが泣けば、乳の代わりに私のこの目玉をなめさせてください」
 と言って、自分の目玉を繰り抜き、家を出て行きました。
 子どもは、目玉をなめて育ちましたが、とうとうなめつくして、なくなってしまいました。子どもがあまり泣くので、男は子どもを背負い、龍泉寺の池のそばに行きました。
 すると、池の中から白い蛇が現れて、もうひとつの目玉を子どもに与えました。
「私はこれで、両目ともなくなって夜も昼もわからなくなりました。どうか、朝に六つ、暮れに七つ、お寺の鐘を鳴らしてください」
 と、言って池の中に帰り、もう二度と再び、姿を見せることはありませんでした。子どもを思う白蛇の愛情に心打たれた男は、龍泉寺の鐘を、毎日鳴らし続けたということです。
 また、龍の口の泉は今も枯れることなく、大峯山修験者の清めの水になっています。